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2000年8月、浅草オレンジ通りに誕生し、連日大盛況を見せた人気寿司店「まぐろ人(びと)」。今では「江戸前寿司をもっと身近に」を合言葉に、浅草・上野を中心に“立ち食い寿司”の業態で8店舗を展開しています。運営する栄都商事株式会社では、創業者である、現代表の父の代から10年以上、朝日信用金庫と取引しており、SPC(特別目的会社)を設立する形で、事業承継をご支援させていただきました。そうして現在、同社を率いる代表取締役の阿部直希さんにサラリーマンから中小企業経営者になられた苦労や悩み、そこに朝日信用金庫がどのように寄り添ってきたかについて、お話を伺いました。
栄都商事株式会社
代表取締役阿部 直希

―栄都商事さんには事業承継をご支援させていただきましたが、お取引はそれ以前からですね。
栄都商事/阿部氏(以下敬称略)栄都商事は2000年に父が設立して、浅草のオレンジ通りで100坪という、かなり大きな回転寿司店を営んでいました。おかげ様で、この店は連日行列ができる人気店となり、アメリカのCNNで東京の寿司店TOP3に選ばれたこともありました。2012年には老朽化でビルを建て替えるのに伴い、本店を新仲見世通り店(※)に移転しました。そんな風に商売は順調でしたが、2016年に父が急逝します。当時私は銀行勤めで、ヨーロッパに駐在していたため、いったん母が事業を取り仕切り、2019年の年末に私が帰国して引き継ぐこととなりました。朝日信用金庫さんには父の代からお世話になっており、私自身は代表就任後の2020年からお付き合いをさせていただいています。※新仲見世通り:東京・浅草にある全長約380メートルのアーケード商店街で、「仲見世通り」を東西に横断する形に整備された。浅草最大のアーケード商店街。
―2020年というと、新型コロナウイルスにより緊急事態宣言が発出され、飲食店も大変な時期でした。そんなときに事業を引き継がれたわけですが、どのような状況でしたか。
栄都商事/阿部引き継ぐに当たっては、もともと2020年は東京五輪が予定されており、インバウンドの活況で浅草もより賑わうはず。そこで当社も大きく発展しようと意気込んでいたのに、出鼻をくじかれました。それどころか、家賃負担や従業員の雇用維持など経営者としてプレッシャーが大きく、絶望と不安にさいなまれたものです。
―それでも事業を立て直すことができたのは、何が力になったのですか。
栄都商事/阿部前職の銀行を退職してまで継いだ事業だったというのは大きかったですね。また、もともと家業を継ぐ気はなかったのですが、父はやはり私に継いで欲しかったのだろうと感じ、その遺志に応えねばという使命感もあって、ここを何とかして乗り切らねばと、自分を奮い立たせました。そこでまず、毎月500万円、1000万円と預金残高が減っていったのを、コロナ制度融資のご支援を朝日信用金庫さんにいただくことで食い止めました。3月、4月、5月と毎月倒産に近づくような恐怖をリアルに感じ、必死だったという以外は記憶にないほどでしたが、6月に融資を受けられたことで本当に助かりました。
―そうして資金に余裕ができ、業態転換を進めることができたのですね。
栄都商事/阿部そうですね。家賃負担を抑えるために「立ち食い寿司」という、立ち飲みのような形の寿司店に転換していくこととしました。回転レーンがないので設備投資もかかりません。厨房スペースほどの、ごく小さな店舗で10人くらいのお客様に和気あいあいと寿司を楽しんでいただくスタイルです。それを「まぐろ人(びと)」という店名でブランディングし、浅草や上野を中心に、今では8店舗を直営しています(2025年8月現在)。
―いろいろ選択肢はあったかと思いますが、「立ち食い寿司」が良いと思った理由は何でしたか。
栄都商事/阿部全く未経験の業態に転換するのはリスクが大きいですが、長く営んできた寿司を立ち食いの形にするのであれば、従業員の雇用が守れ、店舗面積が小さい分、家賃負担も少なくて済みます。また、コロナ禍を機に、大人数の宴席や飲み会は減っていくだろうとも予測しました。気心の知れた仲間と好きなものをサッと食べて帰る。これからの時代はそんなスタイルが広がるのではと思い、立ち飲みならぬ「立ち食い」で寿司を提供しようと決めました。
―阿部さんご自身は、コロナ制度融資で初めて朝日信用金庫とお付き合いいただきましたが、そのときの印象をお聞かせください。
栄都商事/阿部朝日信用金庫では支店長も担当の方も常に親身になって話を聴いてくださるのが印象的でした。そうして当社の状況を丁寧かつ、しっかりとご理解いただけたと思います。特に、コロナ禍という厳しい状況のなかでも電話やメールも含め、小まめにご案内をいただけたのは有難く、その優しさやスピード感には本当に助けられました。地域密着の金融機関だからこそ、このような安心感が実感できたのだと思います。
―当初は融資を中心にご支援させていただきましたが、その後、事業承継にも取り組まれることになりました。どういった経緯で事業承継に目を向けられたのでしょうか。
栄都商事/阿部当座の資金繰りに目途が立ち、中長期ビジョンを考える余裕が出てきました。そこで立ち食い寿司でリブランディングし、店舗展開していく成長戦略を描くなかで、当時の株の持分が気になったのです。もともと当社の株は、父が9割、私が1割を保有しており、父の持分を母が相続していました。ですが今後、事業成長に伴い資産価値が上がると、将来、母が亡くなった時の二次相続(※)での税負担が過重になります。私自身が前職の銀行でそうした例を多々見てきて、備えの必要性を痛感していたのです。そんな話を、コロナ禍が一段落した頃に当時の支店長にしたところ、担当部署を紹介されたので、最初は参考までに株価計算をお願いしました。他の金融機関に相談に行くこともなく、日常のなかでの自然な流れでしたね。※二次相続:最初の相続の後、二度目に発生する相続のこと。たとえば、両親の片方が亡くなった時が一次相続で、残された配偶者が亡くなった時が二次相続となります。一次相続よりも法定相続人の数が少ないため、基礎控除額(非課税枠)が減ることなどに注意が必要です。
―SPC(特別目的会社※)を使うことにした決め手は何でしたか。
※資産や事業を切り分けるために一時的に設立する会社。例えば「会社の株や不動産を別枠で管理する箱」のようなイメージです。
栄都商事/阿部実は株価計算をした段階では、すぐに対応すべき差し迫った課題とは思っていませんでした。母も健在でしたし、1~2年は様子を見ようかと考えていたほどです。ただ、株価は予想以上に高く、このまま相続が発生すると大変だと感じました。実際に話が動いたのは、当時の支店長がSPC関連の部署に異動されたのがきっかけです。そこで改めて提案されて、具体的な数字や実施した場合のメリット・デメリットが整理されたことで、現実味が出てきました。さらにアフターコロナで業績が回復し、当面黒字基調(安定して利益が出せる状態)でいけると自信がもてたことで、株価が上がる前にSPC設立で資産を切り分けておくべきだと思い、実施に踏み切りました。
―改めて、事業承継後の気持ちの変化や、今後の事業における展望をお聞かせください。
栄都商事/阿部大株主となったことで、社を代表する者として一段と責任を痛感しました。一方で、事業承継リスクを回避できたことで安心感も得られ、業績向上に専念できています。今後は、現在の8店舗を2年以内に10店舗に拡大し、その後は海外展開も視野に入れています。新しいもの好きで立ち飲み・立ち食い文化に親和性のあるアメリカで挑戦してみたいですね。そのときの世界情勢にもよりますが、また朝日信用金庫さんに雑談も含めて相談し、支援いただけたらと期待しています。
―お客様としての視点から、朝日信用金庫で仕事をするにはどういうタイプの方が向いていると思われますか。
栄都商事/阿部求めたいのは、まず顧客への寄り添いです。資金のこと以外にも、日々の経営の悩みなどを雑談でも真摯に聴いてもらえれば何でも話しやすく、相談もできます。そのうえで情報を提供いただきたい。たとえば当社のような飲食業であれば、流行の店・業態のトレンドなどにアンテナを立ててもらえると有難いです。このあたりに出店に向いた空き物件が出そうだといった、信金さんのネットワークならではの情報も有難いですね。
―阿部さんご自身も金融機関に勤められていたときは、そうしたことを意識されていたのですか。
栄都商事/阿部いやぁ、振り返ると自分はあまりできていませんでしたね。それは、メガバンクと地域密着の信金さんとの違いもあると思います。信用金庫さんにはやはり、傾聴いただけること、こちらの困りごとにしっかりと向き合ってもらえることを求めたくなります。それに、中小企業であってもフェーズによって悩みは異なります。店舗を増やしていくタイミングでは融資や物件情報の案内が有難いし、一定規模になってきたときには「人」が大きな課題になるので、離職防止や人事評価制度の見直しなどについても相談できると助かります。直接のアドバイスでなくても、コンサルタントや専門家を紹介してくれるだけでも有り難いです。とにかく、信金さんの担当者にいえばワンストップで応えてもらえるというのが、中小企業の経営者には何よりなんです。日々、孤独で悩んでいたりしますので、良きアドバイザーとして、いつでも近くにいてほしいですね。

*掲載内容は、インタビュー当時(2025年11月)の内容です。